
第三者割当増資は、会社が特定の企業や投資家などを選び、新たに株式を引き受けてもらって資金を調達する方法です。事業提携や財務基盤の強化などに活用される一方、「発表すると株価は下がるのか」「既存株主の持分はどれくらい希薄化するのか」「非上場会社では株主総会が必要なのか」「増資後の仕訳や登記はどうするのか」といった疑問も生じやすい制度です。本記事では、2026年8月時点で確認できる会社法、東京証券取引所の上場制度、国税庁、企業会計基準委員会などの公表情報を基に、第三者割当増資の仕組みから手続き、価格、株価への影響、ワラントとの違い、会計・税務まで順番に解説します。

この記事の目次
- 第三者割当増資とは何か
- 第三者割当増資のメリット・デメリット
- 非上場会社で利用する場合の注意点
- 第三者割当増資の手続きと株主総会決議
- 第三者割当増資の価格はどう決めるか
- 株価への影響と「悪材料」といわれる理由
- 希薄化率の計算方法
- 第三者割当によるワラントとの違い
- 第三者割当増資の仕訳・会計処理
- 法人税など税務上の注意点
- 増資後の変更登記と登録免許税
第三者割当増資とは?特定の相手から出資を受ける資金調達
第三者割当増資とは、特定の第三者に新株を割り当て、その相手から払込みを受けることで資金を調達する方法です。
割当先には、取引先、業務提携先、金融機関、投資会社、ファンド、既存株主などが選ばれることがあります。「第三者」という名称ですが、必ずしも現在の株主以外だけが対象になるわけではなく、特定の既存株主へ割り当てるケースも含まれます。
会社法では「第三者割当増資」という名称の独立した制度が定められているわけではなく、会社法199条以下の募集株式の発行等に関する制度を利用して行われます。
英語では「Third-Party Allotment」
第三者割当は英語で一般に「third-party allotment」と表現されます。日本取引所グループの英語版でも、特定の投資家や株主へ直接株式等を発行する方法として「third-party allotment」という表現が使用されています。
第三者割当増資の主な目的
第三者割当増資が利用される目的は会社によって異なります。代表的には次のようなものがあります。
- 新規事業や設備投資に必要な資金を確保する
- 運転資金を確保して財務基盤を強化する
- 業務提携先との資本関係を構築する
- M&Aや事業拡大のための資金を調達する
- 特定の投資家から成長資金を受け入れる
銀行借入や社債とは異なり、通常の株式発行によって受け入れた資金については元本を一定期日に返済する義務はありません。そのため、自己資本を厚くできることが大きな特徴です。
第三者割当増資のメリット
返済義務のない自己資本を調達できる
第三者割当増資によって新株を発行すると、会社に払い込まれた資金は資本金または資本準備金などとなります。借入金とは異なり、通常は元本を返済する必要がありません。
財務基盤を強化したい企業にとって、資本性資金を調達できる点は重要なメリットです。
特定の相手との関係を強化しやすい
公募増資では広く投資家から資金を募りますが、第三者割当では割当先を特定できます。そのため、資金調達と同時に業務提携・販売提携・技術提携などを進める目的で利用されることがあります。
非上場会社でも利用できる
第三者割当増資は上場企業だけの制度ではありません。スタートアップや中小企業など、株式市場に上場していない株式会社でも利用できます。
第三者割当増資のデメリット
既存株主の持分が希薄化する
新株を発行すると発行済株式数が増えます。その結果、既存株主が追加取得をしなければ、保有株数そのものは変わらなくても会社全体に占める持株比率や議決権比率が低下します。
利益額が変わらないまま発行済株式数が増えれば、1株当たり利益(EPS)が低下する可能性もあります。この「希薄化」が、上場会社の第三者割当増資で特に注目されるポイントです。
大規模な割当では経営権に影響することがある
大量の株式を特定の相手へ発行すると、その相手が大株主となり、議決権構成が大きく変化することがあります。割当規模によっては、実質的な経営支配に影響する可能性もあります。
既存株主から発行条件を厳しく見られる
市場価格などと比べて著しく低い価格で特定の相手だけに新株を取得させれば、既存株主に不利益が生じる可能性があります。そのため会社法では、特に有利な金額による募集株式の発行について株主総会での説明・決議が重要になります。
第三者割当増資は非上場会社でもできる?
可能です。むしろ、外部投資家から資金調達を行うスタートアップなどでは重要な資金調達手段の一つです。
ただし、ここで注意したいのが「非上場会社」と「会社法上の非公開会社」は同じ意味ではないという点です。
会社法上の「公開会社」とは、発行する株式の全部について譲渡制限を設けている会社ではない会社を指します。証券取引所に上場しているかどうかとは別の概念です。
そのため、第三者割当増資の手続きを判断するときは「上場・非上場」だけではなく、会社法上の公開会社に当たるか、株式に譲渡制限があるか、取締役会設置会社か、定款にどのような規定があるかを確認しなければなりません。
第三者割当増資の手続き・流れ
具体的な手続きは会社の機関設計や発行条件によって異なりますが、新株を発行する一般的な流れは次のように整理できます。
- 資金調達の目的・金額・割当先を検討する
- 発行可能株式総数や定款を確認する
- 株式価値を検討し払込金額を決める
- 株主総会または取締役会等で募集事項を決定する
- 引受希望者へ募集事項等を通知する
- 申込み・割当てまたは総数引受契約を行う
- 割当先から払込みを受ける
- 新株発行の効力が発生する
- 資本金・発行済株式総数などの変更登記を行う
会社法199条では、募集株式の数、払込金額またはその算定方法、現物出資を行う場合の内容、払込期日または期間、増加する資本金・資本準備金に関する事項などを募集事項として定めることとされています。
第三者割当増資では株主総会が必要?
会社法上の非公開会社では原則として株主総会決議
会社法上の公開会社ではない株式会社が株主割当以外の方法で募集株式を発行する場合、原則として募集事項を株主総会で決定します。会社法199条2項の決議は、会社法309条2項に基づく特別決議が必要となる類型です。
したがって、非上場の中小企業であっても、「取締役だけで自由に第三者へ新株を発行できる」とは限りません。
公開会社では原則として取締役会で決定できる
会社法上の公開会社では、特に有利な払込金額で発行する場合などを除き、原則として取締役会決議によって募集事項を決めることができます。
ただし、払込金額が引受人にとって「特に有利な金額」に該当する場合には、株主総会でその必要性を説明し、所定の決議を経る必要があります。
1人の割当先が過半数の議決権を取得する場合にも特則がある
公開会社で、募集株式の引受人が増資後に総株主の議決権の過半数を有することになる一定の場合には、会社法206条の2による特則があります。
会社は原則として株主へ所定事項を通知・公告し、議決権の10分の1以上(定款でこれを下回る割合を定めている場合はその割合)の株主から一定期間内に反対通知があった場合には、緊急の場合を除き、株主総会で特定引受人への割当てについて承認を受ける必要があります。
第三者割当増資の株主総会ルールは「上場か非上場か」だけでは決まりません。次ページでは、株主に直接影響する発行価格・株価・希薄化率について詳しく解説します。



